17. Maxim KOVTUN (RUS) 207.40
SP: TES: 32.29 + 33.56 = 65.85 (19位)
FS: TES: 75.81 + 66.74 – 1.00 = 141.55 (14位)
ロシア唯一の代表として、ソチでの出場枠を2つに増やす使命を一身に背負ってカナダまでやってきたKovtun選手だが、今回は彼の出場自体がかなりのいわくつきだった。
昨年末のロシア選手権では、Evgeni Plushenko選手が優勝、2位はSergei Voronov選手、3位はKonstantin Menshov選手、4位はArtur Gachinski選手、5位がKovtun選手だった。しかし露スケート連盟は、欧州選手権にPlushenko選手、Voronov選手、Kovtun選手を派遣することにした。今季国際的に最も安定した結果を残してきたのはMenshov選手だったので、彼が選ばれなかったことについて、他のコーチや選手達からも大きな批判の声が上がった。17歳のKovtun選手(17歳)は今季のJGPFのチャンピオンだが、国際的なシニア戦の経験はまったくなかった。どうやらKovtun選手のコーチであるTatiana Tarasova氏が強引に教え子を捻じ込んだらしい。結局批判の声は捻じ伏せられて、決定通りの3選手が派遣された。(Gachinski選手は今季完全にスランプの中に沈んでしまっている。)
クロアチアで開催された欧州選手権では、Plushenko選手がSPで6位と出遅れた後FSを棄権し(その後イスラエルに飛んで背骨の手術をしたらしい)、Voronov選手は7位に終わった。一方でKovtun選手は4位と善戦した。
欧州選手権と同じ頃ロシア国内ではテスト・スケートが行われていた。ここでもMenshov選手が優勝したが、結局世界選手権にはKovtun選手が派遣されることになった。今年ロシアの世界選手権枠は一つのみだったので、ソチでの枠を二つに増やすためには、彼が10位以内に入らなければならなかった。
Menshov選手がことごとく代表選考から漏れたのは、29歳という年齢が大きな理由なのだろう。一方でシニア戦の経験が近場のクロアチアの欧州選手権だけというKovtun選手が、果たしてカナダの大舞台で欧州選手権並みの演技をできるのだろうかという不安もあった。(彼の欧州でのスコアは226.57だった。)
世界選手権派遣選手の選出方法は国によって異なる。北米の場合は基本的に国内選手権の一発勝負だが、国内ジャッジのみによる競技会の場合、今季の女子シングルの様に結論先にありきで、連盟が勝たせたい選手を無理やり勝たせることも比較的容易だ。日本の場合はGPSと国内選手権の両方が考慮され、その分選手の負担も大きいが、国際大会のGPSでは特定の国の選手だけ順位を調整することは難しいという側面もある。(ただし2010年のGPFではそれらしいことは起きている。GPSのスポンサーはほとんどが日本企業なので、ISUがJSFの意向を反映させることは十分考えられる。)
ロシアの場合はかなり特殊で、選考基準はかなり玉虫色だ。GPSの成績が良ければロシア選手権で順位が下でも選ばれることあるし(ロシア選手権は全日本と同じ頃開催されるので、GPFまで進んだ選手には体力的・精神的にかなりきつい)、今季のMenshov氏の様に何をやっても選ばれないこともある。結局はコーチの政治力で決まる部分が大きいらしい。
ここまでややこしい経緯を経て世界選手権に出場したKovtun選手だが、周囲の期待のプレッシャーに負けたのか、東欧とは違いすぎるカナダの環境にびびったか、結局は17位という「惜しかった」とさえ言えない順位に終わった。
おそらくTarasova氏は、「少なくとも若いMaximに良い経験を積ませることができたのは収穫だった」と言って自分の判断を正当化させるのだろうが、いくら露スケート連盟が都合の良い理屈で自らを慰めたところで、自国開催の五輪で男子シングルに自国の選手が一人しか出場できないという事実は変わらない。Menshov選手のパーソナルベストは昨年Rosletecom Cupの223.72だが、彼は今季を通して安定していたから、今回の世界選手権で10位のMichal Brezina選手を抜いていた可能性は否定できない。
露スケート連盟の幹部は未だにソビエト連盟時代のメンタリティで動いていると皮肉混じりの声が聞こえるが、もしソ連が崩壊していなかったら、Denis Ten選手がソ連代表として銀メダルを獲得していたかもしれないというのも結構な皮肉である。
(女子についても書く予定ですが、ちょっと時間がかかるかも。)