この週末プリンスアイスワールド(PIW)東京公演に行ってきた。会場のダイドードリンコアイスアリーナは客席数2200の常設リンクで、住宅街の中にあるごく普通のスポーツ施設といった感じだ。私が観に行ったのは14日(日)午後の公演だったが、客の入りは8割くらいだろうか。結構空席も目立った。
1978年にViva Ice Worldとして始まった(パンフレット参照)PIWは、日本のアイスショーの草分け的存在で、毎年地方公演も含めてかなりの公演数をこなす。よく愛知公演がテレビで流されるが、東京公演は滅多にないと記憶している。愛知公演も東海地方ではすぐに放送されるが、関東地方では去年の愛知公演が今年のゴールデンウィークに横浜公演の宣伝のために放送されたと記憶している。東京公演がメディアに大きく取り上げられることはほとんどないようだが、今年は8月にBSジャパンが放送するらしい。
それが今年の東京公演の初日12日(金)の初回には、TV局数社が取材に押しかけ、中には生中継までした局もあったらしい。(私は仕事中で見ていないので詳細は知らない。)大きな理由はゲストスケーターの一人である安藤美姫選手の娘の父親である噂されている南里康晴氏も同ショーに出演するからだ。PIWの真の主役はPIWチームであり、本来彼らのグループ演技がメインなのだ。出演するトップスケーター達はあくまでゲストだ。現在のPIW座長は八木沼純子氏だが、彼女は今年をもって引退と聞いている。来年から誰がPIWを率いるのか、まだ正式な発表はない。南里氏は、2010-2011シーズンを最後に競技から引退しており、現在はPIWチームのメンバーとして活動している。
現在安藤選手の子供の父親「候補」として複数の名前が上がっているが、メディアが一番有力と騒ぎ立てているのが、彼女の元コーチNikolai Morozov氏と、以前から彼女との交際報道があったこの南里氏である。ちなみに二人とも彼女の子供の父親であることを否定している。既に30代後半で2度の離婚歴がありトップコーチとしての地位を築いているMorozov氏は大きく構えて対応しているようだが、まだ若く大きな後ろ盾もない南里氏は、年収まで報道されて事実上メディアの餌食になっているようだ。安藤選手自身はこの二人を含め、子供の父親についてはノーコメントを貫いている。
安藤選手の父親探し報道で盛り上がるメディはとは裏腹に、この騒ぎはチケットの売上に大きな影響はなかったようだ。私がチケットを取ったのは6月下旬でその時もまだかなりチケットが余っていたが、7月の安藤選手の妊娠・出産報道後も、ぴあやe-plusなどのプレイガイドでチケットが大きく動いたようには見えなかった。むしろ予定されていたEvgeni Plushenko選手の出演がキャンセルになったことで、彼のファンが手放したいEXシートのチケットが転売サイトにかなり出回った。(なお、Plushenko選手の代わりには、Brian Joubert選手が出演することになった。)
メディア各社が揃って安藤選手を持ち上げる、正直気色悪いとさえ思える雰囲気の中で、唯一冷静な記事を書いていたのは東スポだった。
安藤美姫 南里と“共艶”も埋まったのは「65%ぐらい」(東スポ 7月13日)
「中継はなくても、NHKさんを除く民放キー局は全局来ました。今まで見向きもされませんでしたが、一番注目を集めていますね(笑い)」(西武レクリエーション広報)
ただ、マスコミは注目しても、意外にもチケットの売り上げには結びついていないという。会場のダイドードリンコアイスアリーナの収容人数は2200人だが、埋まったのは「65%ぐらい」(同)。
(中略)
一般的に関心があるのは、安藤の女児の父親が誰かというだけで、演技ではないのかもしれない。
安藤選手が出産後に出演したアイスショーは、アート・オン・アイス(AOI)、ドリーム・オン・アイス(DOI)、ファンタジー・オン・アイス(FaOI)、そしてこのPIW東京公演で、PIW以外は全てCICというイベント会社が主催している。PIWもCICとまったく無関係というわけではなさそうだ。PIWチームのリーダー格と思われる西田美和(46歳)というスケーターが、バンクーバー・オリンピックの頃公開された「COACH」というフィギュアスケートを題材とした映画に主演しているが、その映画の特別協力団体の中にプリンスホテルとCICの名前がある。Wikipediaによれば西田氏はトリノ・オリンピックの頃安藤選手のサポートコーチを務めており、両者は個人的にも親しいのだろう。
安藤選手がテレビ朝日の報道ステーションでの独占告白というセンセーショナルな形で妊娠・出産を公表したのは7月2日だった。その後FaOIとPIWには報道機関が押し寄せ、警備にも影響が出たようだ。もし安藤選手が主張するように事を穏便に済ませたかったのなら、PIW東京公演が終了してからひっそりとFAX等で妊娠・出産を報告することもできた筈だ。(PIW東京公演終了後、安藤選手はFS振付のために渡米するという。)FaOI前に報道ステーションでの独占告白という考えうる限り最も派手な方法で公表したのは、安藤選手やCICの興行的思惑もあったのではないか。
そしてプリンス側もそれに便乗した。私はプリンスが南里氏をメディアから守ってくれるのではないかと少し期待していたのだが、現実はまったくの逆だった。PIWチームの演技を観ながら、運営側はこのアットホームな雰囲気の小さな会場にワイドショーのノリのTVカメラの群れを入れたのかと、驚いたと同時に正直呆れた。ちびっ子スケーターも出演する家族向けのショーに、プリンス側は大人の事情を持ち込んだわけだ。
果たして事態はどれくらい安藤選手の予定通りに展開しているのだろう。日本スケート連盟(JSF)からは、既に発表済み以上の特別措置はいまだに引き出せていない。シーズンが始まってから地方ブロックの結果だけで強化指定復活というだけでも異例な話で、既にJSFは安藤選手にかなりの配慮をしていると思うし、これ以上の優遇措置を安藤選手に与えたくとも、与えるだけの理由を今は見出せないというのが本音だろう。アイスショーのチケットの売れ行きをみれば、メディアの煽りとは裏腹に世間の関心も今一つのようだ。そして肝心のスケートの方だが、ジャンプもまだショーでは3Sしか跳んでいない。SPでは2Aと2種のトリプルが必須だし、FSを考えればトリプル4種は欲しい。難易度が低い3Sだけではお話にならない。出産から3ヶ月余りでよくここまで戻してきたとワイドショーでは褒めちぎっているが、去年妊娠前でさえ彼女はアイスショーで3Sと2Aしか跳んでいなかった。現在は2Aさえも行方不明だし、未だにコーチさえ決まっていないようだ。AOIの会場で彼女の演技を生で観た時体幹のコントロールが全然できていないと思ったが、後で妊娠・出産により骨盤も体幹の筋肉も開いてしまったのだと知った。本来なら今頃華やかなショーに出ている場合ではなく、地味な基礎トレーニングに励んでいるべきだろう。
相変わらずワイドショーなどでは選手の現在の演技内容を検証することもせず、「健気なシングルマザーのミキティをソチへ」という論調が大きいようだ。私はテレビ朝日やAERAなど朝日系列の報道機関は、事実上安藤選手のエージェントであるとみなすことにした。そんな中にあって、今回Web記事を読み返していて、東スポが最も冷静で客観的な記事を出しているのには正直驚いた。
安藤美姫国際舞台復帰の「高すぎる壁」(東スポ 7月12日)
いったい、どれだけの滑りを見せれば“特例”が認められるのか。これがかなりの難関だ。フィギュア関係者は、昨年、完全復活した五輪女王の活躍を例に挙げた。
「あの点数は出過ぎかもしれないが、去年のヨナぐらい『やっぱりすごい』とド肝を抜く演技を見せれば、誰からも文句がなく『国際大会に派遣せざるを得ない』となるでしょうね」
安藤美姫と連盟を悩ます“おっぱい問題”(東スポ 7月14日)
安藤の問題は肝心のジャンプがうまくいっていないことだ。2部構成の公演のうち、1回目の3回転サルコーは成功したものの、2回目は転倒。かつて4回転サルコーを成功させた女王の面影はなく、復調は遠い印象だった。
いかにもスポーツ新聞的な品のないタイトルを持ってきておいて、実はちゃんと取材をして書かれたまともな内容の記事である。(胸はじきに元の大きさに戻るだろう。6月からアイスショーに出ているということは、かなり早くに授乳も止めてしまったと思われる。)
その東スポと安藤選手の関係は、お世辞にも良好とは言えないようだ。先日東スポが出した記事を受けて、彼女の公式FBが感情的な反論に出た。
「日付以外全部嘘」「信用する人間いない」 安藤美姫が「第3の男説」の東スポ批判、その後なぜか削除(J-Cast 7月8日)
ちなみに、こちらがきっかけとなった東スポの記事らしい。
安藤美姫と親密な50代の“第3の男”浮上(東スポ 7月7日)
今週末をもってメディアが南里氏を追いかけることに飽きてくれるといいのだが。GWの横浜公演から目に見えて痩せてしまったと、ファンの間では心配の声が上がっているようだ。騒ぎがここまで大きくなってしまった今となっては、子供の父親が誰であれ――南里氏であろうとなかろうと――綺麗なエンディングを期待するのは難しいだろう。この浮かれ騒ぎは「終わりの始まり」なのではないかという気がしている。誰の、あるいは何の「終わりの始まり」なのか、またその終わりの後に何が残るのかは、まだ私自身にもわからないけれど。