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Channel: Mikekoの徒然ブログ
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Riverdance(1)

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今年二月代々木体育館で国体を観戦した時、プログラムに「Riverdance」を使用している選手が多いことに驚いた。そしてほぼ間違いなく盛り上った。FSの後半どんなにバテていても、クライマックスのコレオシークエンスであの音楽がスケーターの脳内のアドレナリン分泌を促すのか、どの選手も最後の力を振り絞り、観客をも巻き込んで、渾身の演技を見せていた。
 
今年のプリンスアイスワールド(PIW)でもPIWチームのグループナンバーに「Riverdance」が使用されていて、とても良いプログラムに仕上がっていた。私が行った日はヴァイオリニストの古澤巌氏なしの日だったが、BS Japanで放送された楽日の公演を観て、やはりその日に観に行ければよかったなと思った。
 
 
Riverdance」がデビューしたのは1994年にアイルランドで開催されたEurovision Song Contestでのことだった。コンテストに参加したわけではなく、Intermission Act、つまりコンテスト参加者の演技の合間の余興のようなものだったのだろう。
 
 
Eurovision Song Contest 1994 - Interval Act- 'Riverdance'


 
金髪の緑のブラウスの男性はシカゴ出身のアイルランド系アメリカ人のMichael Flatleyで、彼がほとんどの振付を行った。伝統的なアイリッシュステップダンスでは上半身は固定し腕は一切動かさないが、あえて彼はここで上半身を解放し腕を大きく使っている。
 
Eurovision Song Contestにおける熱狂的な反響を受け、「Riverdance」はフルプロダクションのショーに拡大され、アイルランド、イギリス、そしてアメリカで完売続出のツアーを行った。


Reel Around The Sun, Riverdance - Live from New York City, 1996


 
 
当時私はアメリカに住んでいたが、「Riverdance」に対する熱狂ぶりはよく覚えている。実は歴史を遡ると、アメリカにおけるアイルランド系移民とその子孫の暮らしは決して易しいものではなかった。イギリスから来たプロテスタント(新教徒)が建てた国では、カソリック(旧教徒)であるアイルランド系に対する公然とした差別があった。O’BrienO’Donnellなどの「O’」で始まる姓はアイルランド系のものだが、差別を避けるために姓から「O’」を取ってしまった人達もいた。自分の出自を隠すことを選ぶ程、差別が厳しく悪質だったということだろう。20世紀に入っても、アイルランド系市民は英国系市民と同じトイレに入ることが許されないことさえあったという。
 
その状況はアイルランド系のJohn F. Kennedy上院議員が1960年の大統領選挙で当選した時に一変した。以来アイルランド系市民は堂々と自分達の出自や文化・伝統を誇れるようになった。余談になるが、アイルランドのシンボルカラーとしてよく用いられる緑色は、アイルランドの大地を覆うクローバーに由来するという。
 
 
Riverdance」の土台になっているのは、アイルランドにキリスト教がもたらされる以前のケルト民族の文化である。宗教は自然信仰に基づく多神教であり、全ての生命の源である太陽の運行に従って暦が作られた。春分、夏至、秋分、冬至、そしてその中間の4つの日、計8つの日を重要な祝日とした。例えば、秋分と冬至の間の日(1031日)はSamhainと呼ばれた暦上の大晦日で、あの世とこの世が繋がる日とされている。日本で言えば大晦日とお盆が一緒になったようなものだろう。ちなみに、Samhainは現代のアメリカではHalloweenとして広く知られている。Halloweenにお化けがつきものなのはSamhainの名残である。キリスト教の神父達がキリスト教を広める手段としてよく使った手段に、現地の土着の宗教を弾圧する一方で、現地の風習にキリスト教を混ぜ込むというものがあった。北ヨーロッパでは祝日をハイジャックしたわけで、カトリックの暦ではHalloweenの翌日の111日は万聖節という祝日になっている。アメリカのHalloweenでは仮装した子供達が近所を回ってお菓子をもらう「trick or treat」がつきものだが、超保守的なキリスト教徒の家庭では子供達に「trick or treat」を禁じているところもある。彼等にしてみれば異教(邪教)の風習に基づくものだからだ。冬至はYuleと呼ばれ、この言葉は「Harry Potter」にも出てくるが、日本語版ではわかりやすくクリスマスに置き換えられてしまったようだ。ちなみに、イエスが本当は何月何日に生まれたのか、正確にはわかっていない。(歴史家によると、どうやら冬でさえないらしい。)春分のOstaraEaster(イエス・キリストの復活祭)の語源だと言われている。
 
Reel Around The Sun」というタイトルは実に象徴的で、くるくる回る糸巻き(reel)は生命の循環を意味する。春分と夏至の間のBeltaneという祝日はその年の豊穣を祈願する重要な祭りの日であり、人々は花などで飾った大きな木の柱(maypole)を囲んで手を繋ぎ輪になって踊ったという。「Riverndance」が欧米人の心を捉えた大きな理由は、かつて人々が自然と共に暮らし大自然の神秘を日々直接肌で感じていた太古の昔に対するノスタルジアにあったのではないだろうか。
 
 
フィギュアスケートでも「Riverdance」は様々なスケーター達に使われてきた。私も詳しく追っかけてきたわけではないが、一番有名なのはShae-Lynn Bourne & Victor Kraatz組(カナダ)の1997–1998シーズンのFDだろうか。

 
Shae-Lynn Bourne & Victor Kraatz FD @ 1998 World Championships


 
ちなみにこのシーズン彼らは世界選手権で銅メダル、長野オリンピックでは4位だった。彼らのトレードマークであるハイドロブレーディングもふんだんに使われている。FDでもエレメンツががんじがらめに指定されている現在の採点法では、ここまで個性的でクリエイティブなプログラムは作れないだろう。
 
フロア上のダンスをフィギュアスケートに解釈しなおすのは難しい。氷上で細かいステップを踏もうとすれば、普通はスケートが滑らなくなってしまう。これだけ複雑なステップを踏みながらスピードが落ちないのはさすがというところか。
 
 
Riverdance」のブームもピークを過ぎてツアーもかつて程大規模なものではなくなり、もうフィギュアスケートでも国際的なトップレベルの選手が使うことはないかなと思っていたら、今季のアメリカの若手男子Jason Brown選手(18歳)のFSが「Riverdance」だという。

 
Jason Brown FS @ 2013 Glacier Falls Summer Classic
Choreography: Rohene Ward


 
アメリカの男子選手は髪型も短髪が多く、できるだけ中性的な気配を消して保守的なジャッジにウケの良さそうなマッチョなルックスを演出する選手が多い。そんな中で、あくまで頑固にポニーテールのBrown選手はちょっとユニークな存在で、男子でありながら昨季はFSに「Liebestraume(愛の夢)」を使用したり、なかなか面白い。スケーティングが綺麗で音楽の表現に長けた個性的な存在感のある、将来が楽しみな選手だ。
 
(続く。)

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